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第10回UNDP職員リレーエッセイ「開発現場から」 UNDPインドネシア事務所 宇野智之さん2012年11月9日 ボルネオ島の中央カリマンタン州奥地でのプロジェクトを視察する宇野さん(写真右) インドネシアで最も温暖化の主原因と言われる泥炭 インドネシアで進む森林伐採。写真は地元の人による小規模な伐採状況 近くのパーム油園によってアロワナの稚魚が育たなくなり、協議をする養殖業者ら 地面から出る温暖化ガスの測定ボックス。UNDPがICCTFプロジェクトで、ボルネオ島各地に設置 インドネシアは人口2億4000万以上を擁する東南アジア最大、世界4位の人口規模を誇る民主国家です。経済は年々順調に成長、日系企業などはインドネシアへ次々と進出しています。そのような中、インドネシアは2003年に1人当たりの国民総所得(GNI)が1025米ドルを超え(2012年現在は2940米ドル)、晴れて中進国(MIC: Middle Income Country)となりました。それでも問題は山積しており、特に温暖化に関しては泥炭地火災などによって世界3位の温暖化ガス排出国と言われ、それは日本よりも多いです。また1万7000以上の島々からなるため海面上昇や干ばつに対する脆弱性も指摘されています。 UNDPインドネシアの活動 私は国連開発計画(UNDP)インドネシア事務所で気候変動全般を担当しています。主なプロジェクトは以下の通りです。 ・国連気候変動枠組み条約への第三次国家報告書プロジェクト TNC:Third National Communication 国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)に加盟している国は、自国の気候変動に関する状況を「国家報告書」という形で国際社会に定期的に提示することになっています。インドネシアでは環境省が各種省庁をまとめ、UNDPと一緒に第三次報告書を作成中です。 ・インドネシア気候変動基金 ICCTF:Indonesia Climate Change Trust Fund 最近、大量の気候変動関連資金がインドネシアに振り分けられていますが、この資金をよりよく把握・管理するためにBappenas(インドネシア国家開発庁)とUNDPはインドネシア気候変動基金を立ち上げ、インドネシアの気候変動プロジェクトの透明性や効率性の向上を目指しています。今後はICCTFの国際的な信頼向上、民間資金の活用などに取り組んでいく予定です。 ・森林伐採・劣化の抑制による温室効果ガス削減スキーム REDD+ (Reducing Emissions from Deforestation and Degradation) 世界第2位の森林伐採率とされるインドネシアに対し、ノルウェーはREDD+支援として、2010年に10億米ドルの拠出を表明しました。これを受け、大統領直轄タスクフォースが結成され、UNDPと共同でREDD+庁の創設、資金管理メカニズムの構築、森林伐採ライセンス発行の2年間凍結など、REDD+をインドネシアで実施するための基本的なインフラ整備を進めています。 ・持続可能パーム油プロジェクト SPO:Sustainable Palm Oil インドネシアは世界最大のパーム油生産国ですが、その生産過程には森林伐採、生物多様性の生息地の減少、地元住民の土地収奪、多大な温室効果ガス排出など、様々な問題が指摘されています。そこで、同国農業省とUNDPは既存の法・規制体系を見直し、パーム油農園の関連規制の遵守を第三者機関にチェックしてもらう新スキームを設立、同時に民間企業と共同で関連プロジェクト実施に向けて準備を進めています。 ・低炭素キャパシティ・ビルディングプロジェクト LECB:Low Emissions Capacity Building インドネシアの大統領は2009年、自国の温室効果ガスを2020年に26%削減すると世界に公言しました。この公約実現のために行動計画が策定されましたが、まだ国際社会に認定され、資金援助を受ける水準に達していません。UNDPはUKP4(大統領直下開発実行・管理機関)と共同でこの行動計画の見直しと国際標準化を目指しています。 MICならではの留意点 インドネシアはMICになったことでLDC(Least Developed Countries)向けの基金が使えなくなり、援助も減少しています。例えば、英国・国際開発省(DFID)は気候変動部門のみを残して2011年に撤退しました。しかし、インドネシアのようなMICは経済成長をしているからこそ森林伐採、土地収奪、環境汚染、社会格差などの問題に直面し、国力が増大するにつれ域内や国際的な経済成長や安全保障に影響を及ぼすようになってきています。従ってMICへの援助はまだまだ必要と感じます。 援助形態についていうと、インドネシアなどMIC特有の問題解決には国際協調、民間参画、法整備、高い技術力などが不可欠で、いわゆる箱物系の援助のみではなかなかうまくいきません。そこで、援助形態は従来の「与える」援助政策から「一緒に」問題を解決していくパートナーシップへ移行しており、現にインドネシアの国連機関は同国における開発指針を従来のUNDAF(国連開発「援助」枠組)からUNPDF(国連「パートナーシップ」開発枠組)に変更しています。日本とインドネシアを例にとれば、温暖化の国際的な責任を果たしつつ公的基金を通して環境技術を移転、生活の質向上を広範な民間参入後押しで実現するなど、チャンスもいろいろありそうです。 日本とUNDPの協働 インドネシアでこのようなパートナーシップ型援助を行うためには各プレーヤーの連携が必要不可欠と思われます。私も以前、日・UNDPパートナーシップ基金から資金を拠出していただき、国際協力機構(JICA)とUNDPの省エネ家電プロジェクトを結びつけましたが、まだまだ協働の余地はあるように思えます。今後はJICAとUNDPとのMOU(覚書)や「国連邦人職員との連携を推進し、その活動を支援する議員連盟(国邦議連)」が十分に活用され、双方のより効果的な援助政策が展開されることを願います。私も微力ながらこういった試みを民間連携や気候変動資金メカニズムなどを通して手助けできればと思っています。 -------------------------- 宇野智之(うの・ともゆき) UNDPインドネシア事務所 気候変動プログラムマネージャー イギリス生まれ。早稲田大学理工学部卒業。いすゞ中央研究所にてハイブリッド自動車の開発を担当。その後、東京大学新領域創成科学研究科 国際協力学修士課程修了、オックスフォード大学(MSc in Nature, Society and Environmental Policy)修士課程修了。ロンドンの野村総合研究所の研究員を経て、2008年6月より国連開発計画(UNDP)インドネシア事務所で勤務。 |