国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所のウェブサイトは2013年9月に移転しました。
新ウェブサイトはこちらからご覧いただけます。
検索 |
第4回UNDP職員リレーエッセイ「開発現場から」 UNDPパキスタン事務所 青木真理子さん2012年2月24日 2011年8月、イスラマバードのUNDPパキスタン事務所にて、青木さん(左から3番目)と同僚 青木さんが担当する「連邦直轄部族地域 ( Federally Administered Tribal Areas、FATA )帰還民早期復興プロジェクト」のワーキンググループ会議の模様。ペシャーワルにて開催 UNDPパキスタンが日本政府の資金を得て実施する「紛争予防と平和構築事業」。紛争によって失われた生計の復興支援なども行う UNDPパキスタン事務所は、UNDPの重点活動分野でもある1)危機予防と復興 2)民主的ガバナンス 3)貧困削減とミレニアム開発目標(MDGs)達成 4) 環境保護と持続的開発という4分野で優先的に活動をしています。私は、度重なる自然災害や紛争に見舞われ疲弊した地域の復興と災害予防対策を実施する、危機予防・復興ユニットに所属しています。 パキスタンを災害に強い国に パキスタンは、2005年に大地震に見舞われ、2010年には「建国史上最悪」と言われる大洪水が発生しました。2011年にも南部で洪水が発生し、連続した自然災害とその甚大な被害で、自然災害への脆弱性が顕著となりました。これは大きな課題の1つとなっています。 また、パキスタンはアフガニスタンと長い国境を接し、一時期武装勢力の活動が非常に活発な国でもありました。北西部では、武装勢力の掃討作戦などに一般市民が巻き込まれ国内避難民(IDPs)が大量にでるなど、紛争の傷跡が多く残っています。 「自然災害」と「紛争」の大きな2つの課題を抱えるパキスタンにおいて、UNDPパキスタン事務所は、緊急支援から長期開発支援へ移行する際の橋渡しとなる「早期復興(Early Recovery)支援」に力を入れてきました。早期復興支援は、災害被害者がいち早くもとの生活に戻れるよう、地域インフラや生計手段の復旧を中心にするもので、長期開発への基盤を形成する重要な時期を担います。 UNDPパキスタン事務所の目標は、「パキスタン政府との協力関係の下、早期復興支援を通じて自然災害と紛争に負けない国と制度を確立すること」です。 「連邦直轄部族地域 (FATA)帰還民早期復興プロジェクト」の発足 UNDPパキスタン事務所は現在、連邦直轄部族地域 (FATA)の4つの地域管区を対象に、国連機関、NGOsとともに「帰還民早期復興プロジェクト」を立ち上げようとしています。 FATAは、パキスタン国内北西部のアフガニスタン国境地帯に位置する地域で、パキスタン国内で最も辺境地として知られます。パキスタンの他の地域が州制度で成り立っているのに対し、FATAは部族社会制度で成り立っています。部族社会という特殊性から、パキスタン政府による社会開発が遅れ歴史的に十分な開発支援を得られておらず、パキスタンで最も貧困問題が深刻な地域です。 FATAでは2008年からパキスタン国軍による武装勢力の掃討作戦が始まり、この紛争で20万5903世帯が国内避難民(IDPs)となり、他の州などに避難しました。さらに2010年のパキスタン大洪水では多くのパキスタン地域同様、被害に見舞われました。 この間、FATAは本当に大変な状況となりましたが、UNDPなど様々な機関の支援を受け、2011年9月のデータでは、国内避難民のうち9万6905世帯がFATAに帰還しています。また昨今、治安が安定してきたことを受け、残る17万5667世帯も、段階的に避難民キャンプなどからFATAに戻りつつあります。 しかし、帰還したからといって安心するわけにはいきません。FATAに帰還する多くは紛争と洪水によって家屋や生計手段を失っており、生活を立て直す基盤がありません。そのため、UNDPはFATA地方政府災害対策課とともに、FATA帰還民早期復興プロジェクトを推進するためのワーキンググループを立ち上げました。 UNDPが主導するワーキンググループには、14の国連機関を含む40あまりの人道支援機関が参加しています。パキスタン政府や多数のFATA地方政府機関と連携しながら、FATAに戻った人々が一刻も早く安定した生活環境を得られるよう、8分野に的をしぼり、支援対策を作成しています。来月には約140の早期復興事業案を完成させ、国際社会に対し支援の必要性を訴えていく予定です。 国際社会との絆。東日本大震災を受け、国際援助の必要性を再認識 当初予定していたパキスタン着任時期の直前である2011年3月11日、日本で東日本大震災が発生しました。そのとき、私はNGOの東京事務所で働いていました。緊急支援活動をしているNGOの職員といえども、母国・日本でのあまりの被害の大きさによるショックを受け、また一刻も早く支援を被害地域に届けなければという焦りに駆られました。日本のすべての人道支援団体が必死に時間と戦っている時期でした。そうした状況の中、全く想定していなかった海外のNGOや財団から直接事務所に電話を受け、支援の申し出をいただきました。 私が国際開発支援の仕事に携わるようになって初めて、国際支援のローカル(被災国の地元)パートナーNGOになる経験をしました。このとき、海外からの支援にどれほど勇気付けられ、またその支援がどれほど意味深いものであるのかを肌で感じました。 予定の着任日から遅れること2か月、まだ復興には長い道のりを残す日本に後ろ髪を惹かれる思いでパキスタンに着任しました。日本と同様、パキスタンでも復興に向けて人々が全力で取り組んでいます。日本が国際社会から受けた支援の意義と、また被災国となったときの気持ちを忘れずに、私もパキスタンの方々と共に災害からの早期復興を目指していきたいと思います。 ――――――――――――――‐ 青木真理子(あおきまりこ) Programme Analyst 危機予防・復興ユニット UNDP パキスタン事務所 1978年、千葉市生まれ。上智大学卒業。コンピューターソフト会社勤務を経て2005年、英国に留学。帰国後、NPO法人「難民を助ける会」でアフガン駐在員などを経験し、2011年7月からUNDP職員としてパキスタン事務所で勤務。紛争によって国内避難民となった人々を対象とした「連邦直轄部族地域 ( Federally Administered Tribal Areas、FATA )帰還民早期復興プロジェクト」を担当する。イスラマバード在住。 |