ターゲット7-A:持続可能な開発の原則を各国の政策や戦略に反映させ、環境資源の喪失を阻止し、回復を図る。
Human Security Unit,the United Nations;Photograph by Evan Schneider
アフリカでは、人口の大多数が農業で生計をたてているだけではなく、燃料や水も自分たちで調達するなど、人々の生計、そして生存そのものを天然資源に大きく依存しています。持続的な自然環境の維持こそがが、アフリカの開発と発展にとって不可欠です。
2007 年、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4 次報告書は、気候の温暖化が進行しており、しかも「20 世紀中頃から見られる地球の平均気温上昇は、観測された人為的温室効果ガスの 排出によるものである可能性が極めて高い」ことを明確にしました。二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスの世界全体の排出量は1990 年から2005 年にかけ、30%増大しました。2005 年、280 億トンに達したCO2は増加の一途をたどり、大気中のCO2 濃度は上昇し続けています。
サハラ以南アフリカ諸国の温室効果ガス排出量は、世界の総排出量のわずか2%に過ぎません。CO2を最も多く排出している国はアメリカと中国で、それぞれ世界全体の排出量のほぼ5分の1を占めています。1人当たりの排出量でくらべると、2004年の最大量はアメリカの20.6トンであるのに対し、全世界の平均は4.5トン、サハラ以南アフリカはわずか1トンと、非常に大きな差があります。
にもかかわらず、世界的な気候変動の影響で、サハラ以南アフリカの総人口の10-35%の人々の生活が脅かされると推定されています。
気候変動は、天候不順、自然災害の増加(洪水、土砂崩れなど)、砂漠化をはじめとする土地の劣化の進行や水不足という形で、人々の生活に大きな影響を及ぼします。多発する自然災害による家屋の損壊、水・食料・燃料の不足、マラリアなどの感染症の流行、農業や漁業などの生計手段の崩壊が引き起こされた結果、貧困が深刻化することになります。また、食料の入手が難しくなったり農産品による収入源が絶たれることで、栄養状態も悪化します。天然資源が枯渇すると、紛争が起きやすくなることも考えられます。
特に、経済への影響は深刻です。アフリカでは農業がGDPの約21%を占めています、同地域では農業の約8割が雨水による「天水農法」に依存しているため、収穫量が降雨パターンの変化に大きく左右されます。砂漠化が進んだ地域では、農業からの歳入が2060年までに25%も減ると言われています。生産性の低下は、政府の歳入の落ち込みと国の経済の不安定化を招くばかりではなく、子どもたちにとっては栄養状態の悪化や、家計を支える必要性から就学率の低下にもつながり、MDGsの進捗にも深刻な影響を及ぼします。
アフリカなど最貧国では、エネルギーの8割以上を蓄糞や薪といった伝統的なエネルギー源から得ています。効率の悪いコンロや加熱技術を使うために、必要以上に在来燃料を採集せざるを得ない結果、土壌の悪化を招いています。富裕国でエネルギー大量消費の生活様式を変えていくことと、途上国でエネルギー技術を向上させていくことの両面での取り組みが求められています。
さらに、並行して、クリーン・エネルギーや再生可能エネルギーの技術の導入、エネルギー効率の向上、持続的な土地利用のための支援を通じ、温室効果ガスの削減と経済成長を両立させるための取り組みが必要とされています。
ターゲット7-B:生物多様性の損失を2010年までに減少させ、その後も継続的に減少させ続ける。
Human Security Unit,the United Nations;Photograph by Julie Pudlowski
生物多様性と貧困は密接に関連しています。貧困層の多くは農村地帯に住み、食料、燃料、住居、薬、そして生計を周囲の生物多様性に頼って生活しています。また、生物多様性は、いわゆる「生態系サービス」として、大気や水の浄化、土壌保全、疾病対策、自然災害の予防といった開発活動そのものに大きな利益をもたらしています。その経済価値は計り知れないと言われています。
地球の自然生態系と特に絶滅が危惧される種を守るために、国際社会は陸域と海域の保護を促してきました。しかし、2008年までに保全地域とされているのは、陸と海を含む地球全体の12%の面積にとどまっています。
アフリカでは、1990年から2007年の間に27ヵ国が保全地域を拡大しました。たとえば、コンゴ民主共和国は、2007年の時点でアマゾン川流域に次ぐ世界で2番目の熱帯雨林地帯を有しており、保全活動が続いています。
世界では、1年に年間1300万ヘクタール(バングラデシュの国土面積に匹敵)もの森林面積が失われています。そのうち、サハラ以南アフリカは、世界で最も急速に森林破壊が進んでいる地域の一つです。
まずしい農村地域では、乳児死亡率、出生率、人口増加率が上昇すると、農民が薪と新しい農地のために熱帯林を伐採することから大規模な森林破壊が進み、環境悪化がさらに貧困を深刻化させるという悪循環を生んでいます。森林の保全は、気候変動の緩和にもつながるので、さらなる努力が必要です。
ターゲット7-C:2015年までに、安全な飲料水と基礎的な衛生設備を継続的に利用できない人々の割合を半減させる。
MDGsが掲げる8つの開発課題は、それぞれが複雑に絡みあい、いずれか1つの分野における進展が、他の分野の動向を大きく左右します。このような開発課題の結びつきが最もよく表れているのが水と衛生設備の問題です。きれいで安全な水と改善された衛生設備へのアクセスの向上は、貧困、子どもの教育、子どもと妊産婦の健康、ジェンダー平等などの様々な開発課題の改善につながります。
たとえば、水汲みが伝統的に女性の仕事とされているサハラ以南アフリカの国々では、水へのアクセスが困難な地域では女性が、きれいで安全な水を求めて10キロメートル以上も歩くことも珍しくありません。サハラ以南アフリカでは年間400億時間が水汲みに費やされていますが、これはフランスの全労働力の1年分に匹敵するという試算もあります。このように水汲みは社会経済活動を著しく阻害する一方で、安全な水が身近にあれば、彼女たちはより生産的な活動に自分の時間を使うことができるようになるのです。
1990年以来、安全な水を利用できない人々の数は、特にアジア地域において大幅に削減されました。しかし現在でも、世界では約8億8,400万人もの人々が、不衛生な水を飲用や生活用水として利用しており、そのうち84%(7億4,600人)は農村部に居住しています。
人々の需要を満たすだけの水が身近に存在する地域でも、きれいで安全な水の普及は大きな課題です。農村部やスラムのように水の入手が困難な地域で暮らすまずしい人々が、きれいで安全な水を手に入れるためには、上水道が整備されている国や地域に居住する豊かな人々の何倍もの労力とお金が必要です。この課題を解決するためには、資金だけでなく、適切な政策を考えて実行する政府の役割が重要なのです。
1990年から2006年のあいだに、11億の人々が衛生設備にアクセスできるようになりました。しかし2006年時点で、清潔なトイレを利用できない人々がまだ25億人もいます。途上国で衛生施設を利用できる人の割合は4人に1人にすぎません。国民の半分以上が改善された衛生施設を利用できない国は54 ヵ国ありますが、その4 分の3 はサハラ以南アフリカに位置しています。また、世界人口の約半数は農村地域に暮らしていますが、改良衛生施設を利用できない人々の7割以上は農村部に居住しています。都市部でも、衛生施設の改良が人口増加に追いついていないのが現状です。
きれいな水へのアクセスが無く、衛生施設が欠如していることによって引き起こされる下痢は、幼い子どもの主たる死亡原因の一つであり、世界で1日に約4400人の子どもが、下痢が原因で命を落としています。その最大の被害者は、農村地域とスラム街のまずしい人々です。人口が密集している都市部でひとたび伝染病が発生すると、衛生施設の不備は、多くの人々が感染の危険にさらされる原因となります。MDGsを達成するためには、2015年までにさらに14億人のアクセスを可能としなければなりません。
また、サハラ以南アフリカの農村部では約2億人、南アジアの農村部では約7億人もの人々が屋外で排泄をしています。屋外での排泄は、感染症流行の危険性を高めるため、その悪影響は個人だけではなく、コミュニティにも及びます。また、1人で人目につかない場所に行くことは女性や女の子を危険にさらすことになります。
ターゲット7-D:2020年までに、最低1億人のスラム居住者の生活を大幅に改善する。
「スラム」とは:
都市部の人口密集地域にみられるような、①きれいな水へのアクセス、②改善された衛生設備、③十分な居住スペース、④耐久性のある家屋、という人間が生活するための最低条件が備わっていない居住区域のことです。スラムは、多くが公有地や私有地に不法に形成されていることから、住民は上下水道や電気などの公的サービスを受けることができません。長年にわたる政情不安や紛争により都市部に人が流入し、スラムが形成されることもあります。
1990年には、途上国の都市人口の半数近くが、スラムで暮らしていました。この状況は主にアジア地域において大幅な改善がみられますが、それでも2005年時点で都市人口の36%、約3人に1人がスラムの劣悪な環境下で暮らしています。特に、サハラ以南アフリカでは都市人口の6割がスラムで生活しています。コンゴ民主主義共和国、コモロ、シエラレオネ、スーダンなどにおいて、スラムの居住人口が著しく増加しています。
スラムでは、劣悪な住環境のために、住民が病気になったり、乳幼児が死亡する可能性が高くなります。スラムの改善には、収入向上や雇用の促進、教育プログラムの実施など、貧困削減のための包括的なアプローチが求められています。