ターゲット8-A:開放的で、ルールに基づいた、予測可能でかつ差別のない貿易および金融システムのさらなる構築を推進する(グッド・ガバナンス、開発および貧困削減に対する国内および国際的な公約を含む)。
Human Security Unit,the United Nations;Photograph by Julie Pudlowski
MDGsの達成には、途上国政府だけではなく、先進国も大きな責任を担っています。資金的な協力に加え、貿易障壁の撤廃や、返済困難な債務問題解決への協力など、貧困国の足かせとなっている様々な国際的構造を変えていく努力が必要です。
また、途上国政府も、開発資金をより有効かつ公平に運営・管理できるよう、政策改革や制度の強化、政治の腐敗に取り組むなど、民主的ガバナンスを強化する努力が強く求められています。
政府開発援助(ODA)だけではなく、国際貿易と国際金融の動きも、途上国のまずしい人々の生活に大きな影響を与えます。たとえば、先進国の企業による海外直接投資は、途上国の経済成長に利益をもたらしますが、途上国の労働力や自然資源を使い捨てるようなやり方だと、格差の助長や環境破壊を引き起こします。また、国際金融市場で、農産物に大量の投機が行われたことを引き金に食料危機がおこり、その結果として世界の飢餓人口は史上最高の10億人を突破してしまいました。そこで、途上国の貧困削減につながるような貿易・投資のルールを確立することが必要です。
国際的な貿易ルールを多国間で話し合い、合意形成を図る枠組みとして、世界貿易機関(WTO)があります。2001年11月に、途上国の開発上の利害を議題の中心に据えた「ドーハ開発ラウンド」が始まりましたが、途上国の視点に立った「ドーハ開発アジェンダ」は、先進国の抵抗もあり、なかなか進展しません。
貿易によりアフリカ開発を進展させるためには多くの課題があります。2007年の世界の輸出量に占めるアフリカのシェアは下降の一途をたどり、2007年にようやく増加に転じましたが、カナダ一国と同じわずか3.1%に過ぎません。またそのほとんどを南アフリカと産油国が占めています。
先進国の市場開放、途上国の農産品輸入に関する特別な緊急輸入制限阻止(SSM)など、「ドーハ開発アジェンダ」への合意と確実な実行が、MDGsにおけるグローバル・パートナーシップにとって重要なカギになっています。
ターゲット8-B:後発開発途上国(LDC)の特別なニーズに取り組む。 ((1)LDCからの輸入品に対する無関税・無枠、(2)重債務貧困国に対する債務救済および二国間債務の帳消しのための拡大プログラム、(3)貧困削減に取り組む諸国に対するより寛大なODAの提供を含む。)
Human Security Unit,the United Nations;Photograph by Julie Pudlowski
国連は、1)所得、2)栄養・健康・教育を含む人的資源、3)経済基盤のぜい弱性が一定の基準を下回る国を、後発開発途上国(LDCs)に分類しています。現在49ヵ国あるLCDsのうち、33ヵ国がアフリカにあります。
国際社会は、LDCsを貿易において特別な配慮が必要な国々であるとしてきました。これらの国々の経済や産業基盤は脆弱で、先進国と対等に競争をすることは不可能だからです。2005年のWTO閣僚会合で合意された「香港宣言」には、LDCからの輸入品目の97%について、関税と輸入枠を撤廃することが目標として盛り込まれました。しかし現状では79%にとどまっています。
また、LDCにおけるMDGs達成の障壁として、多額の債務を返済するために、水、教育、保健に国家予算を割けない、という現状も挙げられます。
途上国は、開発を進めるために多額の資金を海外の政府や銀行から借り入れてきました。これらの資金は途上国の開発に貢献しましたが、予期せぬ社会・経済環境の変化を受け、十分な返済を行うことが困難となった国も増えました。腐敗した政権が多額の借入を行い、しかしその資金を国民のために使わずに債務だけが残ったというケースもあります。そこで、一定の条件を満たした国に対し、債務の帳消しを求める声が大きくなっています。
保健医療や教育、水や衛生設備といった社会基盤を整えるために、非常に多額の投資をしなくてはなりません。それに必要な追加資金は、およそ500億ドルと見積もられています。そのために、国連は、OECD開発委員会(DAC)諸国に対し、各国のGNI(国民総所得)比において0.7%もしくはそれ以上のODAを拠出することを目標に掲げました。しかし、2008年現在、それを達成しているのは5ヵ国のみで、DAC諸国平均は0.3%、日本は0.18%と大きく下回っています。総額では世界一の拠出額であるアメリカも、対GNI比でみると0.18%でしかありません。日本を含むDAC諸国が2015年までにこの目標と達成するためには、DAC諸国の政治的な意志と国民の理解が必要です。
ターゲット8-C:内陸国および小島嶼開発途上国の特別なニーズに取り組む。内陸国および小島嶼開発途上国の特別なニーズに取り組む。
周りをすべて陸にかこまれ、国境が海に接していない内陸国や領土が非常に小さい小島嶼国は、そうではない国々に比べて開発における地理的制約が大きいとされています。MDGsの枠組みの中で、内陸国や小島嶼開発途上国に特有な開発ニーズを満たす必要性が取り上げられていますが、具体的なターゲットは定められておらず、他のMDGs指標を用いて内陸国および小島嶼開発途上国のMDGsの進捗状況が測定されています。2007年のOECDと国連MDGレポートのデータによると、内陸諸国には毎年およそ20億ドルから25億ドルのODAが拠出されています。
ターゲット8-D:国内および国際的な措置を通じて、開発途上国の債務問題に包括的に取り組み、債務を長期的に持続可能なものとする。
2009 年3 月末までに、適格国41 ヵ国のうち35ヵ国が、重債務貧困国(HIPC)イニシアチブによる債務救済の対象になりました。35 ヵ国中24ヵ国(うち20ヵ国はアフリカに所在)は、債務救済に必要な条件をすべて満たし、救済撤回の可能性がなくなるという「完了時点(completion point)」に到達しました。これらの諸国は2007年現在価値で228億ドル(うちアフリカ20カ国で192億ドル)の債務救済を約束されています。完了時点に到達した国々はまた、多国間債務救済イニシアティブ(MDRI)による228億ドルの追加支援を受けたため、債務返済が一層軽くなりました。
しかし、2008年の世界的な経済危機によって、輸出の収益が大幅に縮小、開発途上国での輸出収益における債務返済額の割合が再び拡大することが予測されています。
ターゲット8-E:製薬会社と協力し、開発途上国において、人々が必須の医薬品を安価に入手・利用できるようにする。
国際保健は、MDGsにおける大きな課題です。HIV/エイズなどの感染症による死を防ぐためには、途上国の政府がより多くの国民に医薬品を供給できるようにしなければなりません。そのためには、ジェネリック薬のような、安価な医薬品の普及が必要です。WTOのTRIPS協定は、製薬会社が開発した新薬への知的財産権を重視し、それが途上国でのジェネリック薬の普及を制限している、という批判・論争が国際社会で繰り広げられてきました。その結果、自国で製薬能力を持つ途上国は、公衆衛生を知的財産権に優先し、国民に薬を供給できるようになりました。しかし、未だに多くの途上国では、安価、または無償で医薬品を入手できないことがあります。
国際的な取り組みとしては、国際機関や民間財団、企業、NGOがパートナーシップを組んで2002年1月に設立した「世界エイズ、・結核・マラリア対策基金 」をはじめとする国際保健基金が、エイズ、結核、マラリアの治療薬の調達と、その供給に重要な役割を果たしています。
ターゲット8-F:民間セクターと協力し、特に情報・通信における新技術による利益が得られるようにする。
途上国に行くと驚くことの一つに、携帯電話の普及があります。
固定電話と携帯電話の加入者数は合計で、1990 年の5億3000 万人から2006 年末には40 億人以上に増加しました。特に携帯電話の普及が著しく、2005 年以来の新規加入者は5 億人を超え、2006 年末時点で27 億人を上回っています。固定電話回線数が少ない地域ほど、携帯電話市場が急速に拡大しています。
アフリカでは、2006 年の携帯電話新規加入者数が6500 万人を超え、2000年には50人に1人だった携帯保有者の割合は、3人に1人に迫る勢いで増加しています。携帯電話の普及に伴い、ショート・メッセージ・サービス(SMS)やモバイル・バンキングもさかんに利用されるようになりました。
他方、インターネット利用における先進国と途上国の格差は依然として大きいのが現状です。2008 年末時点で、世界の17億人がインターネットを利用していますが、うち60%が先進国の人々であるのに対し、LDCs諸国はわずか1.5%に過ぎません。
先進国でインターネット利用の急拡大をもたらしたブロードバンド接続も、開発途上地域の多くではなかなか普及が進んでいません。開発途上国では所得水準に比して利用料金が極めて高く、LDCsのうち30ヵ国では、1ヵ月の接続料が各国GNIの1ヵ月分に相当するという報告もあります。
開発途上地域でインターネットへの接続が可能になれば、健康、教育、雇用および貧困削減に関する目標の達成に役立つと考えられています。途上国における情報通信技術の普及拡大は、効果的な規制枠組み等による、投資促進と利用料金低減への取組みがカギとなります。