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2006年06月29日

プノンペン
UNDP、人々の生活水準の向上に主眼を置く『アジア太平洋人間開発報告書(HDR)』を発表:貿易は最終目的ではなく、人間開発達成のための手段である

 アジア太平洋地域の国々が貿易と経済成長を人々の生活向上に活かせるような全く新しい政策を採用した場合、これらの国々の貧しい人々は自由貿易の恩恵を受けることが可能となる。国連開発計画(UNDP)は、同地域の重要な開発問題に焦点をあてた『アジア太平洋人間開発報告書(HDR)』シリーズ第一弾を本日発表し、このような議論を展開している。

アジア太平洋人間開発報告書(HDR)ウェブサイト:
www.undprcc.lk/aphdr2006

 本報告書は、アジア太平洋地域の多くの国々において、国際貿易の自由化が経済成長と所得増加による貧困削減に多大な貢献をしてきたことを認識するものである。アジア太平洋地域は現在、安価で労働集約的な製品を生産できることと、ハイテク関連製品を生産することの双方において、「世界の工場」として機能している。東アジアでは、「奇跡的な」経済成長を目指す過程でとりわけ貿易を有効に活用することにより、輸出が活発化するとともに、教育、医療そして女性の地位向上といった諸側面への対応が進んだ。

地域別の経済成長率

出典:世界銀行2005a, 国際通貨基金(IMF) 2004

 しかし同時に貿易は、国家間の不平等にとどまらす、国内でも地域間、セクター間、世帯間の不平等を拡大させてきた。報告書はさらに、同地域の自由経済の多く(特に東アジアの成功事例)は、雇用(特に若年層と女性向けの)を創出することにはならず、「雇用なき経済成長」を出現させている、と警鐘を鳴らしている。貿易は主に雇用を通じて人間開発に影響を及ぼすことから、この指摘は重要である。

 1990年以降、中国やシンガポールといった貿易集約型の国々では、失業率が大幅に上昇した。さらに、自由貿易の恩恵は未熟練労働者よりも高収入の技能労働者により多くもたらされ、そのために人間開発が遅れることになった。

地域別の経済成長率

出典:世界銀行2005a, 国際通貨基金(IMF) 2004

「政府による断固たる行動」の必要性
 本日(29日)、プノンペンの式典において本報告書を発表したハフィス・パシャ国連事務次長補兼UNDPアジア太平洋局長は、「アジア太平洋地域はグローバリゼーションの恩恵を被っているが、同地域の貧しい人々もグローバリゼーションの恩恵に服するためには、政府による断固たる行動が是非とも必要とされている」と述べている。
 本報告書は、貿易がより有効に貧困層に作用するため、各国の政府がなすべき8項目の課題を示している。これらの勧告は、競争力強化のための投資、戦略的貿易政策の導入、貧困対策の根幹にかかわる農業および地方開発分野の再重点化、そして「雇用なき経済成長」への対処戦略等を優先課題と位置づけている。
 さらに本報告書は、新たな税制確立のための準備、安定的且つ現実的な為替レートの維持、域内協力の推進についても勧告を行っている。特に報告書は、アジア太平洋地域が積み増してきた膨大な外貨を活用すれば、原油高の影響を被った貧困国への財政支援や、地域インフラ整備のための投資促進に利用できる、願ってもない資金源になり得るとしている。

「勝者」となるための課題
 アジア太平洋地域の、とりわけ14カ国の後発開発途上国(LDCs)注記1および太平洋の島嶼国では、貿易からもたらされる人間開発の恩恵を被ることはほとんどなかった。これらの国々はグローバル化を切望してきたが、世界貿易機関(WTO)加盟に際しては厳しい条件を課せられ、中国からの輸出品に圧倒される一方で、この域内最大の市場に自国産品を売り込んでもほとんど利益を獲得できずにいる。

アジア太平洋地域の対中国貿易 2004年(単位:100万ドル)

中国向け輸出 中国からの輸入 貿易収支
後発開発途上国(LDCs)
内訳: 314 3,560 -3,246
バングラデシュ 57 1,906 -1,849
カンボジア 30 452 -422
ラオス 12 101 -89
ミャンマー 207 938 -731
ネパール 8 163 -155
低所得国 11,460 12,945 -1,485
中所得国 46,017 25,140 20,877
高所得国 247,109 228,419 18,690
アジア太平洋地域計 304,900 270,064 34,836

出典:国際通貨基金(IMF)2006

 スリランカにあるUNDPコロンボ地域センターの後援を受けて本報告書を作成した、様々な国籍からなる執筆チームのリーダーを務めるAnuradha K. Rajivan氏は、「アジア太平洋地域は、対照的な国家が並存する地域であり、平均化によって域内LDC諸国の不振に注目が集まらなくなっている」と述べている。

 本報告書は、パシャ局長が「アジア太平洋地域の人々による、彼らのための」報告書であると形容するように、数多くの専門家、学識者、政府関係者、非政府組織の代表、市民社会および民間部門を初めとする様々な分野の人々との広範にわたる協議を経て完成した。

その他の特徴
 本報告書のその他の特色は以下の通りである。

従来は取引不可能だったものが取引可能となり(特にサービス)、短期労働者の移住、商業活動の外部化、観光等は、人々が貧困から脱却するための大きな可能性を提供することになった。
繊維・衣類輸出における数量割当てが撤廃されてから、アジア太平洋地域は全体的に利益を享受してきたが、その利益の大半は中国およびインドによって先取りされてしまっている。
貿易障壁および歪められた価格の影響を受けて農業部門は停滞し、アジア太平洋地域が主要輸入国となったことで、同地域の食糧の安全保障と農村部の生活に影響が生じている。
 本報告書は、選択的かつ適正な貿易自由化はグローバリゼーションを適切に管理する鍵となると論じている。

 UNDPコロンボ地域センターのMinh H. Pham氏は、「貿易と人間開発は相互関係にある。全体として、貿易の『勝者』と『敗者』を分けるのは、一国において既に存在する保健、教育およびインフラ開発などの要素であり、これらが備わっていてこそ、更なる成長が促進されるのである」と述べている。例えば、「奇跡的な」経済成長を達成した国々は、既にそれ以前に達成していた人間開発の好影響を受けて、貿易の機会を捉えることができたのである。

注記1
アジア太平洋地域の後発開発途上国(LDCs)は、4つの内陸国と7つの島嶼国を含む多様な国々によって構成されている。内訳は以下の通り:アフガニスタン、バングラデシュ、ブータン、カンボジア、キリバス、ラオス、モルジブ、ミャンマー、ネパール、サモア、ソロモン諸島、東ティモール、ツバル、バヌアツ。その他のLDCsのほとんどはアフリカ諸国である。

以上


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