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ニュースルーム −プレスリリース−

2010年03月08日

『アジア太平洋人間開発報告書』が同地域は世界で有数のジェンダー格差を抱えていると報告
女性への暴力を規制する法律が定められている国はわずかで、女性の教育の不足と無賃金労働が経済成長を阻む 

2010年3月8日、デリー、インド:本日発表された国連開発計画(UNDP)による『アジア太平洋人間開発報告書- Power, Voice and Rights: A Turning Point for Gender Equality in Asia and the Pacific』は、アジア太平洋地域は最近の数十年間にわたる力強い経済改革を実現しながらも、その成長をジェンダーの平等化に反映できていないと指摘している。女性に対する無関心や差別は、アジア太平洋地域における女性の現状が世界平均に比べて政治代表、雇用そして財産所有率が最低の割合であるという形で表れており、経済成長を阻むとともに、女性たちの存在そのものを脅かしているという。

ヘレン・クラークUNDP総裁は、デリーで行われた本報告書の発表記者会見で「女性のエンパワーメントは開発目標の達成、経済成長の促進、そして持続可能な開発において大変重要です。政策はジェンダーの平等を推進し、女性が男性と同等に雇用創出や社会インフラへの投資の恩恵にあずかれるようにしなければなりません」と述べた。
本報告書は、経済、政治的意思決定そして法的権利に焦点をあて、女性たちの参画を阻むものは何かを分析し、そしてジェンダー平等の実現に向けた政策や女性に対する対応は変えられるということを訴えている。アジア地域は現在、前向きな変化を遂げ、必要な政策を策定するために岐路に立っているという。

『アジア太平洋人間開発報告書- Power, Voice and Rights: A Turning Point for Gender Equality in Asia and the Pacific』の指摘:

差別の経済的代価
女性の雇用率を先進国水準の70%までひき上げればインド、インドネシアやマレーシアのGDPは年間2%から4%上昇すると推測される。女性たちが賃金労働に従事している割合は、東アジアでは世界平均の53%を大きく上回る70%に達しているが、インドやパキスタンなどの南アジアの国々では35%に満たない。そして、女性が賃金労働に従事している割合の低さは、長期的な経済成長の伸び率と連動している。女性と男性の賃金の平等は法律で保障されているにもかかわらず、アジア太平洋地域では女性は男性の賃金の54%から90%しか得られていない。多くの女性はおもに男性が従事したがらない、もしくは「生来、女性にふさわしいと思われる」仕事に従事し、最も賃金の低い労働に従事していることが多い。

ジェンダー指標が示すアジア太平洋地域の不平等         
東アジアでは、保健、教育、雇用そして政治参加などのジェンダー平等の指標で高数値を示すが、南アジアはサブ・サハラ地域に次いで低いことが示されている。南アジア地域の女性の非識字率は約半数と世界最低水準であり、男性よりも5年平均寿命が短い。さらに出産時の死亡率もサブ・サハラに次いで高く、毎年10万人当たり500人となっている。

法や公職に携わる女性の割合も低い
アジア太平洋地域の女性が立法議会に有する席の数はアラブ地域に次いで少なく、また公選者の数もわずかである。法律制定者に女性がいない世界6カ国のうち、4カ国は太平洋準地域に属している。
また、開発の進捗具合と女性の政治参加の割合は必ずしも一致しておらず、日本や韓国では女性が立法議会に有する席はわずか一割である。反対に 紛争から復興過程にある国では女性の政治参加の機会が多く、ネパールでは33%、東ティモールでは30%の議席を女性が占めている。
女性の政治における議席数を定めることは、インドの地方政府の向上に貢献した例からも有効だと証明されている。しかし、女性の政治参画の度合いを高め、継続させるには議席数の確保とともに憲法で定めること、リーダーシップ研修や政党の改革が必要とされる。

「失われた」女性たち
中絶に起因すると考えられる男児に対する女児の出生率の低さ、保健や栄養状態への無関心に起因する女性の死亡数は増加している。東アジアの出生比率の差は最大で女児100人に対し男児119人である。中国とインドでは、毎年推定100万人近くの女性が生まれる前に中絶されるか、もしくは保健や栄養へアクセスに対する不平等や無関心によって亡くなっている。
さらに約一割の女性がパートナーによる暴力を受けており、南アジアでは不安定な非正規雇用に従事している就労女性の割合は85%に上る。また財産を保有する女性もまれで、農業はおもに女性が担っているにもかかわらず、農地を有する割合は7%と世界平均値の20%を大きく下回る。
これらのジェンダー不平等は、国の成長や法と社会の安定の障壁となり、アジア太平洋地域の人間の可能性をはく奪する。

法の策定進まず
先述の状況に対して、法律は女性たちを保護しきれていない。女性を暴力から守り、財産を守り、もしくは妥当な方法で離婚できるようにするなどの基本的な課題でもおくれを取っている。
女性への暴力を禁じる法律を定める、もしくは実行する国はわずかで、半数近くの南アジアの国々そして60%の太平洋地域の国々ではドメスティック・バイオレンスを規制する法律が存在しない。また就労する女性の30%から40%が被害を受けているにもかかわらず、性的嫌がらせに対する法規定も存在しない。文化や信仰心が差別的な相続問題、そして女性を狙った犯罪に対する法や規制の無関心を後押ししている。さらに夫や家族に対する法的な訴えもそのまま放置されることが多い。

岐路に立つアジア太平洋地域に対する提言
女性の財産保有に対する障壁を取り除き、賃金労働への就労を促進し、安全な移住、良質な教育や健康への投資がアジア太平洋地域に対する本報告書の提言である。さらに、憲法の改正や司法関係者へのジェンダーに関する研修の実施、宗教的原則のジェンダーに配慮した解釈、女性の政治参画の推進などが呼び掛けられている。そして、危機における際の平和の調停者としての能力を発揮できるよう、参政する女性の数の増加を図ることが求められる。

「ジェンダー平等というのは男女を同じくするという意味ではなく、多様性と自由を尊ぶということなのです。男女の平等は頭ごなしに伝えて実現するものではありません。ひとりひとりが変わることが大切で、最終的には政治的な意思に導かれた国民の行動が重要なのです。」と本報告書の筆頭著者アヌーラダ・ラジヴァンは結んでいる。

『アジア太平洋人間開発報告書- Power, Voice and Rights: A Turning Point for Gender Equality in Asia and the Pacific』のレポート本体や関連の統計、動画コンテンツなどをこちらのウェブサイトにて紹介しています


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