2012年01月19日
アジア太平洋地域の貧困削減には『付加価値のあるエネルギー』パッケージが必要と国連が指摘
【2012年1月19日、バンコク】国連開発計画(UNDP)がアジア太平洋地域での事例研究に基づき報告書を発表し、エネルギーへのアクセスの普及のためには、暖房や調理、電気利用のために必要な現代的なエネルギーへのアクセスを、現金や補完的所得の創出、保健や教育の改善をもたらす取り組みと結び付ける、付加価値のあるエネルギー・パッケージ(「エネルギー・プラス」)サービスが必要だと指摘しました。
潘基文(パン・ギムン)事務総長がグローバル・キャンペーン「すべての人のための持続可能エネルギー(Sustainable Energy for All)」を発足させた週に出版された本報告書は、エネルギーの無い発展はありえず、エネルギーサービスの考慮なしに、持続可能な貧困対策はできないことを明らかにしました。また、貧しい人々が貧困から抜け出すためにエネルギーが必要ですが、エネルギーだけでは不十分であるとも指摘しています。
UNDPでアジア太平洋地域の気候、環境、エネルギーチームを率いるマーティン・クラウセ氏は「農村部と都市部の貧困層は通常、エネルギーサービスへの安定したアクセスがない上、エネルギーサービスがあったとしてもそれだけではほとんどインパクトはありません。貧しい人々がエネルギーを利用するためには、彼らが現金収入を得られる支援が必要であり、そうすることにより家庭の生活水準も向上させることもできるのです」と述べています。
世界人口の約半数は、現代的なエネルギーサービスへの安定したアクセスがありません。また世界人口の20%以上に匹敵する14億人は電力を利用できない状態にあります。世界人口の40%にあたる約27億人は暖房や調理のために、木材や木炭、動物の排泄物を利用しています。さらに非効率なストーブでバイオマス・エネルギーを利用することによる住宅内の大気汚染は、2030年までに毎年150万人以上の死者をもたらす可能性があるといわれています。
エネルギーへのアクセスの欠如とそれによる保健、教育、収入への影響は、慢性的な貧困の主要因となっています。同様に貧困はエネルギーサービスへのアクセスを阻害するため、悪循環を作り出しています。「貧困層のための『エネルギー・プラス』アプローチに向けて(Towards an “Energy Plus” Approach for the Poor)」と題された報告書では、アジア太平洋地域でのエネルギーアクセスに関する17のプロジェクトを検証し、「貧困−エネルギー−貧困」という悪循環を断ち切るには何が有効で、逆に何が功を成さないのかを明らかにしました。
同報告書の分析では、エネルギー関連プロジェクトの大半は、照明や調理、暖房といった貧困層の基本的なエネルギー需要に焦点を当てて、必要最低限度の対策を採用していることを明らかにする一方、エネルギーサービスそれ自体は貧困を削減せず、『エネルギーアクセスが欠如した貧困層』を『エネルギーが利用できる貧困層』へと変えるだけだ」と指摘しています。
その理由として「提供されるエネルギーサービスは、貧困世帯が収入を増やす機会を広げるわけではない、そのため現代的なエネルギーサービスを得るために必要な資金は引き続き限られ、エネルギープログラムは持続不可能な助成金に永続的に、依存せざるを得なくなっている」と挙げています。
さらに、同レポートは「エネルギー、貧困、バイオマス燃料への強い依存は、燃料用の木材の収集と換気の悪い台所での食事の準備に多くの時間を過ごさざるを得ない女性と子どもにより大きな影響を及ぼす」と指摘しています。
こうしたことから本報告書は、女性や不利な立場に置かれているグループに明確に焦点を当てたエネルギーアクセス・プログラムの必要性を訴え、「エネルギーアクセスの改善は、エネルギーサービスへの支払い能力を高める所得の向上もしくは生計改善をもたらす対策とともに実施されるべきである」と補足しています。
本報告書の結論では、エネルギーアクセスの拡大を目指すプログラムや政策は、貯蓄や融資機関、道路インフラ、通信、学校、保健施設、農業拡大サービス、市場アクセス、起業家精神の育成といった他の開発イニシアティブと併行して遂行されるべきであると述べています。
アジア太平洋地域でエネルギーと貧困の悪循環を断ち切ることに有効であった取り組み事例の一部を以下に紹介します。
・エネルギーの解決法が「(現地の需要や状況に)合致している」のかを確認する。広範囲にわたって試験運用をする。
一例として、ラオスで行われているランタンのレンタルシステムがあります。このシステムでは、ソーラー(太陽光発電)ランタンが農村部の消費者に貸し出され、充電スタンドで充電ができるようになっています。このソーラーランタンと配布方法は、灯油ランプよりもクリーンで安全な灯りを手頃に提供するという点で、送電網が整備されていない地域に住む貧しい消費者にとって経済的に意味があります。
・エネルギー製品やサービスが商業的に成り立つ市場を構築する。分散された市場をまとめることにより、民間セクターが貧困層に対しエネルギーサービスを提供することがより実現しやすくなる。
フィリピンでは、「太陽光を通じたコミュニティレベルの電力サービス促進プロジェクト『ACCESS』」が実施されています。このプロジェクトは、僻地や貧困地域を電気サービスが供給できる単位にまとめ、各地の電力サービス提供者に対して最低限の顧客数を保証します。一方、電力サービスの提供者はその地区の少なくとも25%の世帯を電力が利用できるようにしなければなりません。
・反復的でかつ十分な額の政府資金を確保し、適切な資金メカニズムを使用する。効果的なマイクロファイナンスのために必要な体制を確立する。
ネパールでは、貧困層でも利用できるバイオガスプラント建設にマイクロクレジットが重要な役割を担っています。インドでは、Rajiv Gandhi Grameen Vidyutikaran Yojanaプログラムによって、2005年から2010年の間に1180万世帯に対し電力を提供しましたが、これは国家開発プランである「Building India」の一環として、政府が農村地のインフラ建設と拡大に強いコミットメントと投資をした結果、2005年に開始されたものです。
・国家開発計画にエネルギーアクセスに関する明確なコミットメントを組み込み、エネルギーアクセスの目標と投資額を設定する。 フィジーでは、「すべての人に電力へのアクセスを与える」という政府目標に裏付けられた農村電化プログラムで1986年に30.6%だった電力アクセスが、2007年には81.4%まで上がりました。中国では、再生可能エネルギー法により、新しい風力や太陽光、バイオマスプロジェクトの加速化につながり、再生可能なエネルギーに対する政治的、社会的気運が高まる中で劇的な転換を実現しています。
本報告書(英語版)はこちらからダウンロードできます。
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