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ニュースルーム −プレスリリース−

2013年05月29日

アジアにおけるエイズ関連法の実態、明らかに。UNDP報告書がHIV陽性者の人権保護における問題点を指摘

【2013年5月29日、バンコク】アジア太平洋地域におけるHIV陽性者への法的保護は十分に実施されておらず、人権侵害が常態化している――。本日、国連開発計画(UNDP)が発表した新しい報告書は、実効性の乏しい差別禁止法がHIV陽性者の治療、雇用や教育の機会への障害となり、彼らの生活に悪影響を及ぼしていることを明らかにしました。また同報告書は、このような権利侵害被害者のほとんどが法的手段による是正措置を求めていない実態を浮き彫りにしました。

UNDPアジア太平洋地域事務所のクリフトン・コルテス代表代行は「この報告書は、HIVと法律に関する世界委員会(The Global Commission on HIV and the Law)の継続調査として、HIV陽性者とHIV感染のハイリスクに曝されている人々(key populations)が法による保護を容易かつ廉価で受けることができ、法的な手段によって人権侵害に対抗する権限を与える法的環境を整備することの重要性を改めて強調するものです」と述べています。
同報告書は、法律策定とその施行との乖離を明らかにしています。南アジアではHIV関連法を持つ国は未だありませんが、インド、ネパール、パキスタンではHIV関連法案は長年に渡り存在しています。このような現状はHIV検査、インフォームド・コンセント(十分な説明に基づく同意)、プライバシーの保護に関する権利などに対する不確実性を生みます。

また、報告書は、法律の内容と現場レベルでの実際の執行体制との間にもギャップが存在することを示しています。いくつかの国では実効的な法律は存在するものの、HIV陽性者が司法制度を利用するには未だ多くの障害があります。自身がHIV陽性者であるという事実が明るみに出てしまうことに対する恐怖心から、法的措置を求めることを躊躇してしまうことは、多くの国で懸念事項となっています。

アジア太平洋HIV陽性者ネットワーク(APN+)のシバ・プライラプタム代表は「報告結果は、権利侵害を受けた人々が司法への救済措置を求められるようにするため、実効的な方策を早急に講じる必要があることを示唆している。いくら政治家が聞こえの良い法律を制定しても、実際の暮らしの中で人々が彼らの権利救済のために司法制度を利用できなければ意味がありません。私たちはアジア太平洋地域の各国政府やドナーに対し、司法制度の利便性やHIV陽性者の法的権利の強化への協力を要請します」と述べています。

報告書は、偏見や差別などにより社会的に虐げられたコミュニティーに属するHIV陽性者は、国家司法制度の下、法的手続きに則って雇用主や大きな機関に対抗するために必要な財源や手段を欠いていることを示しています。弁護士や人権擁護団体の支援を受けることが出来れば、このような力格差の是正を促進することができます。

他方、いくつかの成功例もあります。報告書はあらゆるHIV関連法や関連法案の詳細な分析を提示するとともに、正義を実現し、権利を強化するために採用されている代替的な法的アプローチの事例を紹介しています。例えば、ベトナムの法的支援制度は、数多くの争議を、裁判所に行かずして談判と仲裁を通じて解決することを可能にしました。この手法は、雇用、住宅、および子供の在学関係における差別事案の解決方法として有効なアプローチであることが実証されています。また、タイではNGOに支援を受けたHIV陽性者グループが、一人でも多くの人々が命をつなぐ治療を受けられるように、HIV治療薬の特許の有効性を争い、結果として勝利を収めました。

このような調査結果に基づいて、報告書はいくつかの提言をしています。その中には、国会議員、裁判官、警察、弁護士、国内の人権団体や他の主要な機関によるより積極的な取り組みを通じて、同性愛者、性産業従事者(セックスワーカー)、トランス・ジェンダー(出生時と違う性で生きようとする人)や薬物使用者などの法的保護の強化を図るための更なる投資なども含まれています。

このような活動をサポートするため、世界エイズ・結核・マラリア対策基金を含むドナーは、HIV関連の人権活動に取り組む政府や市民社会による活動により多くの資源を配分し、これを促進することが期待されます。加えて、国家のHIV戦略・計画は、司法部門に対する的を絞ったより具体的な方策を含めるべきであると考えます。例えば、法改正、HIV陽性者への法的支援や教育の機会提供、ならびにHIV関連の権利問題に取り組む弁護士や裁判官の整備などが含まれます。

UNDPの調査報告は、2013年6月2日から4日にかけてタイのバンコクにて開催される「アジア太平洋におけるHIV,人権と法についての司法対談(Judicial Dialogue on HIV, Human Rights and the Law in Asia and the Pacific)」で取り上げられる予定です。国連合同エイズ計画(UNAIDS)、UNDPと国際法律家委員会(ICJ)による同会議は、裁判官、司法研修所の代表、コミュニティー代表者や他の地域専門家を含む述べ17か国、約60人もの参加者を招いて行われます。

報告書(英語)はこちらからダウンロードいただけます。


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