2007年12月9日 国立京都国際会館
イベント 2007年12月9日 東京
シンポジウム報告
「京都議定書10周年記念シンポジウム:気候変動と人間の安全保障」
12月9日、京都(国立京都国際会館)において「京都議定書10周年記念シンポジウム『気候変動と人間の安全保障』」(主催:国連開発計画(UNDP)、共催:外務省、後援:京都新聞社)が開催されました。開発・環境分野の専門家や学生を中心とした聴衆が会場を埋めた同シンポジウムでは、気候変動が人々に与える影響と国際社会の対応策について、各方面の専門的知見に基づいた活発なディスカッションが展開されました。
ケマル・デルビシュ
UNDP総裁
前半のケマル・デルビシュUNDP総裁による基調講演は、去る11月27日に発表された人間開発報告書(HDR)2007/2008年版『気候変動との戦い- 分断された世界で試される人類の団結』に沿った内容で行われ、人間開発の阻害要因としての気候変動に対し、国際社会が取るべき具体策が提示されました。デルビシュ総裁は、温室効果ガスと気候変動の関連性については既に科学的合意が得られており、地球温暖化という事態の不可逆性・緊急性ゆえに、現段階ではその仕組みや具体的な影響が不確実であったとしても、対策を遅らせることは許されないと述べました。また、グローバリゼーションは機会創出と急速な経済成長を実現し、一部の国々への富の集中をもたらした一方で、かつてないほどの格差の広がりを招いていると指摘したうえで、気候変動の結果としての異常気象による自然災害は最貧国が多く位置する低緯度地域においてにより顕著に現れているため、格差拡大に拍車をかける要因となりうるとして、貧困削減およびミレニアム開発目標(MDGs)達成という観点からも気候変動に対処することの重要性、および、日本の開発政策の柱をなす「人間の安全保障」との相関性を強調しました。さらにデルビシュ総裁は、気候変動への対応策としては、旱魃や洪水といった自然災害への適応策とともに、根本原因である二酸化炭素排出の削減に向けた取組みを緩和策として提示しました。この排出量削減への取り組みについては、これまでに蓄積された温室効果ガスの70%を排出した高所得国に応分の責任分担を求める一方、中所得国のなかでも依然として一人当たり所得が低いインドや中国などについては、これらの国々を枠組みに参加させることの重要性とともに、開発・成長と温暖化対策を両立させることの必要性を強調しました。この大きなチャレンジを克服するためには、技術開発と途上国への技術移転が必要不可欠であると同時に、適切な価格設定、すなわち、排出権取引や炭素税の運用にあたって二酸化炭素の適正な社会的コストを排出当事者に負担させるという取組みを通じて、これらを促進させることが重要であることを指摘しました。
川口順子参議院議員・元外務大臣・元環境大臣および安井至国連大学副学長をパネリストに、外務省の鶴岡公二 地球規模課題審議官をモデレーターに迎えた後半では、パネリスト両氏によるプレゼンテーションに続き、デルビシュUNDP総裁も交えた活発な討議が展開されました。
川口順子
参議院議員・元外務大臣・元環境大臣
安井至
国連大学副学長
川口参議院議員による「日本における地球温暖化対策」と題したプレゼンテーションにおいては、京都議定書に定められた二酸化炭素排出量の1990年比6%削減という日本の数値目標の達成に向けた、政府の施策や高い実用化技術力とともに、「チーム・マイナス6%」や「COOL BIZ」といった国民レベルでの取り組みが紹介されました。さらに、国際的取組みとしては、世界全体の排出量を現状から2050年までに半減させるという長期目標などを掲げた「美しい星50」とともに、再生可能エネルギーの利用促進を通じた緩和対策や、すでに顕在化した気候変動によってもたらされる様々な変化から人々を守るための適応対策、人材育成や技術移転を通じたキャパシティ・ビルディングなどの諸分野における途上国支援の具体例が紹介されました。
また、安井副学長は、「長期的観点からみた気候変動と持続可能な開発」と題したプレゼンテーションにおいて、2007年6月のハイリンゲンダム・サミットで一定の合意をみた「2050年に50%削減」という長期目標の達成に向けた具体的な道筋を科学的データに基づいて説明しました。プレゼンテーションではまず、エネルギー使用量が少ない社会インフラへの切り替えを完了し、炭素税導入などに向けた人々の意識改革が定着するまでに要する年月を勘案した場合に想定される、半減に向けた排出量の推移を示すカーブが示されました。さらにこのカーブに、温室効果ガス濃度と気温の相関に基づき気温上昇の上限を2度と設定した場合の2050年における温室効果ガス濃度の目標値(475ppm)を加味して想定した、温室効果ガス排出シナリオが紹介されました。そして、このシナリオに沿えば、グローバル・レベルでの温室効果ガス排出量を、2001年にIPCCが発表した「B1シナリオ」よりも早い段階で、かつ急速に減少させる必要があること、このため、途上国の開発計画にも影響が及ぶであろうことが指摘されました。この排出シナリオが現実のものとなった場合に直面する課題として、温暖化が途上国に及ぼす悪影響への適応策の必要性および費用負担の問題が挙げられた一方、エネルギー消費量および二酸化炭素排出量の急激な削減の難しさが指摘されました。安井副学長はさらに、排出量削減に向けたこれまでの日本の取組みおよびその成果研究を踏まえて、効率を2倍にする「エコ技術2.0」等の必要性を提言しました。また、温暖化対策の分担における公平性については、エネルギー消費量を図る指標として、一人当たりを単位量としたうえで、鉄鋼蓄積量、二酸化炭素、エネルギー消費量等の各種指標の妥当性に関する議論が紹介されました。
続くパネルディスカッションでは、まず川口参議院議員より、温暖化対策に際して鍵となる技術のなかでも、シンプルで効果の高い技術が途上国で有用であるという指摘とともに、技術移転メカニズムに対するUNDPの取組みについてデルビシュ総裁に、またそうした技術の開発可能性について安井副学長に質問が投げかけられました。デルビシュ総裁からは、大規模なプロジェクトが中心となる排出権取引において、投資銀行による小規模プロジェクト群からなるポートフォリオの形成にUNDPが協力した事例が紹介されました。安井副学長からは、技術開発を促進させるためには社会制度の整備が必要であり、依然として国内市場のみに関心が向けられている日本の現状が指摘されました。
デルビシュ総裁からは、熱帯雨林等の地球的規模の公共財を有するブラジルなどの中所得国に対する、温暖化対策を目的とした日本政府からの無償資金協力の可能性について質問が出されました。これに対し川口参議院議員は、資金の総量ではなく、配分および有効活用が重要であるとした上で、これを実現するための途上国における枠組み作りにUNDPが果たしてきた役割を評価しました。また、鶴岡審議官からは、開発計画の策定にあたって、従来のように直接の貧困対策を重視するだけでなく、気候変動にも配慮することの重要性が指摘されました。
パネルディスカッションの様子
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