UNDP人間開発報告書2007/2008刊行記念シンポジウム
「気候変動の危機に挑む」
(国連開発計画(UNDP)主催、京都新聞共催)
国連開発計画(UNDP)は、気候変動が開発途上国の人々に与える影響と、さらなる気候変動を防ぐために必要な施策を地方自治体や市民レベルで検討するために、日本政府の支援を受けて日本各地でシンポジウムをシリーズで実施しています。2010年2月20日(土)、シリーズの第3回目にあたる「気候変動の危機に挑む〜地域から考える持続可能な開発」(UNDP主催、京都新聞共催)が、京都新聞文化ホールにて開催され、200名を超える参加者が集まりました。
京都府は、1997年の第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)にて温室効果ガスを1990年比で日本は−6%、欧州先進国は−8%を2008年から2012年までの約束期間内に削減する目標で議決した京都議定書が誕生した地です。そして、2008年には環境モデル都市にも制定されており、官学民が意欲的に排出削減や環境問題に取り組んでいることから、国際社会から注目を集めています。
200人を超える参加者の前で
開会のあいさつを行う
山田彰 外務省国際協力局参事官
本シンポジウムでは、2009年12月にコペンハーゲンで開催されたCOP15に日本政府代表団として参加した山田彰外務省国際協力局参事官が特別に登壇しました。COP15では、先進国と途上国の対立などによって2012年に期限を迎える京都議定書に続く国際合意には至らなかったこと、その舞台裏で行われていた日本政府や各国の努力を明かすとともに、「次のCOP16で国際合意が得られるか、そして日本が影響力を発揮できるかどうか、それは日本の政治を動かす国民の力にかかっています。本日のシンポジウムは、その力の一環となることでしょう」と開会のあいさつを行いました。
基調講演を行う紺野美沙子
UNDP親善大使
紺野美沙子親善大使による基調講演
紺野美沙子UNDP親善大使は、これまでに親善大使として訪問した途上国が抱える環境問題について、そしてそれらの国で実施されている排出削減につながる環境プロジェクトの事例を紹介する基調講演を行いました。
「一番伝えたいことは、気候変動の影響は世界の貧困層に最も早く、そして最も大きな被害を与えてしまうということです」と、貧困の現場は何でもそろう現代の日本社会の想像をはるかに超えていると紹介しました。そして、タンザニアで気候変動による干ばつによって、水くみを担当する女性や子どもたちが、就労や教育の機会を奪われてしまい、貧困の連鎖から抜け出すのが難しくなっている例や開発が進んでいない途上国で、天候に頼る農業、漁業を営む人々が被害を受けている現実を紹介し、「気候変動は、もはや人権の問題なのです」と参加者に訴えました。
そして、「自分自身、母として未来を背負う子どもたちに安全な水や豊かな自然を残したいと強く思います。厳しい状況下に生を受けた子どもたちが格差によって受ける苦しみを少しでも減らすには、皆さんの力が必要なのです。」と参加者に呼び掛けました。
十倉良一
京都新聞社論説委員長
パネルディスカッション
基調講演に続いて、モデレーターを務めた十倉良一 京都新聞社論説委員長が「京都議定書誕生から12年。新しい合意が必要とされるなかで、環境と気候変動の問題を国際社会、地域行政そして市民それぞれの視点でとらえ、どのように結びつけていけるかを皆様と考えたい」と述べ、村田俊一UNDP駐日代表、山田彰 外務省国際協力局参事官、奥谷三穂 京都府文化環境部地球温暖化対策課課長、浅利美鈴 京都大学環境保全センター助教、竹花由紀子 NPO法人京都地球温暖化防止府民会議・コーディネーターによるパネルディスカッションが始まりました。
村田俊一UNDP駐日代表
村田俊一UNDP駐日代表は、人類がこのままのペースでCO2排出を続けていると、今世紀末までに、産業革命以前の頃より平均で5℃近くも気温が上昇すること、しかし気温の上昇幅を2℃以内に収めなければ、最も罪のない途上国の人々に気候変動による気象災害被害が大きく降りかかる危険があると、UNDPの発行する『人間開発報告書2007/2008』が指摘していることを紹介しました。そして、気候変動の緩和策とともに、防災インフラの脆弱な途上国の人々が受ける気候変動の被害を軽減するための適応政策の実施など、問題解決の指針を提唱するUNDPの活動を紹介しました。アメリカ、EU、日本などの先進国における経済の変化とともに、中所得、低所得国の国力や発言力が上がり、国際社会の構造が変化していることから、「気候変動の現実をとらえ、各国が連携した戦略を取ることが今後のCOPで求められます」と結びました。
浅利美鈴 京都大学
環境保全センター助教
浅利美鈴 京都大学環境保全センター助教は、環境問題を専門のゴミ問題の視点からとらえ、日本人の生活を振り返りながら、持続可能な社会の達成についての発表を行いました。江戸時代の日本人の生活は、コメの消費量と産出量が一致するなど、持続可能な社会であったことを踏まえながら、現在の消費されている資源は日本だけで地球2.3個分に達していることを指摘し、このままでは途上国の人々や、人間以外の地球生物に大きな負担を強いるようになることを訴えました。「日本国内で廃棄される食物は年間11兆円にのぼります。途上国の環境負荷を減らし、持続可能な社会を実現するためにも『もったいない』の心を子どもや孫に伝えてほしい。」と結びました。
奥谷三穂 京都府文化環境部
地球温暖化対策課課長
奥谷三穂 京都府文化環境部地球温暖化対策課課長は、京都府におけるCO2排出量について発表を行いました。京都府は地球温暖化対策条例に基づいて2010年までに1990年比で10%の削減を目指しているが、産業部門での削減は進んでいても商業サービス部門の増加、核家族化による世帯数の増加やマイカーの増加などが原因となって全体で0.1%増となっていることを紹介しました。このような状況下で、資源を無駄に使っている現代の暮らしのあり方を見直すことが重要だと指摘し、「私たちは自然の一部だという京都の考え方や文化を暮らしのなかに もう一度取り入れていく必要があります」と結びました。
竹花由紀子
NPO法人京都地球温暖化防止府民会議・コーディネーター
竹花由紀子 NPO法人京都地球温暖化防止府民会議・コーディネーターは、京都周辺で市民グループが行っている環境への取り組み事例を紹介しました。植物のツタを使った「緑のカーテン」で建物を覆うことによる断熱を行う事例、シニアOBが企業や工場のエネルギー診断を行うコンサルティングサービスによって一社当たり44d/年の排出削減を実現した事例などを取り上げ、「これらの活動は、参加者が楽しんでいることが特徴です。楽しみながら取り組むことが継続力、普及力につながるのではないでしょうか」と、日々の生活のなかに環境活動を取り入れることを勧めました。
山田彰
外務省国際協力局参事官
また、各パネリストの発表後、山田参事官は、COP15でアフリカ出身の会合出席者が「私たちの家族にとって気候変動は将来の問題ではない。干ばつのせいで自分の村を捨てるか捨てないかを決断しなければならない、今現在の問題なのだ。」と述べていたことが最も印象的だったと語りました。そして、途上国が経済開発を進めるなかで、温室効果ガスの排出削減のための資金や技術を供与するのが先進国の義務だという考えを示しました。排出削減のために経済の収縮を強いるのではなく、日本の優れた環境技術を活用するチャンスととらえながら、ライフスタイルや価値の変革を行う必要性を呼び掛けました。
続いてディスカッションでは、竹花氏が「地球温暖化という言葉への認識度は高く、人々が活動に参加しやすい環境になりつつあります。国際協力の要素をもつ事例も市民の間で増加しています。制度や政権に左右されない地道な環境教育、市民活動こそが真価を発揮することでしょう。」と市民活動のもつ潜在力の高さに強い期待を示しました。
奥谷課長は今年2月に行われた、地球環境の保全に著しい貢献をした者の顕彰を行う『KYOTO地球環境の殿堂』を紹介しつつ、受賞者のひとり、ワンガリ・マータイさんが同時開催の「環境文化学術フォーラム」に出席したこと、京都の取り組みは国際的に共有できるものであることを伝え、「自然の価値を認め、現代人のあり方を変えるのは、教育や地域での学びあいと語り合いです。人の触れ合いが今後の環境活動には不可欠です」と述べました。
村田代表は、「日本は経済成長時に培った知見や技術をグローバルに活用することが求められています。そして、その過程で先進国も途上国の発展に寄与することによって、様々なことを学ぶでしょう。開発援助は決して一方向だけでは成り立たないのです」と開発支援のあり方について述べました。
浅利助教は、ゴミのリサイクル3R(Reduce, Reuse, Recycle)を紹介。青年層のリサイクルに対する知識の浸透率は高いが、実行性は低いという現状を指摘しました。けれども、市民アンケート調査の結果からエコロジーに対する人々の潜在能力の高さは確認できると報告し、「環境問題に対する関心の格差を埋めることが必要です」と訴えました。
山田参事官は、日本の政府開発援助(ODA)は、支援を受けた国から高い評価を受けているにもかかわらず、日本国内ではその認識が低いことに触れ、その認識の差異を解消するのが日本政府の課題であると述べました。「太平洋諸国のゴミ処理問題にも日本の知見は有効に活用されています。ODAに国民の皆さんが参加できるように、地方の方々や非政府組織、市民社会の方々とも連携していきます」と、国民全体で国際協力を実現する方向性を示しました。
最後に十倉コーディネーターは、日本の暮らしは途上国とつながっていること、私たちが快適さを求めてエネルギーを消費することで、途上国の人たちが深刻に被害を受けていることをあらためて強調し、「途上国の人々のことを考えながら、低炭素社会に向けてダイナミックに動きだすことが必要です、そのためには国民一人一人の後押しが必要なのです」とシンポジウムを締めくくりました。
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