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悪法と人権侵害が世界のHIV/エイズ対策を阻害−独立ハイレベル委員会が結論づける

2012年7月9日

法律とHIV/エイズの関連性にメスを入れた歴史的な報告書は、刑罰法規がエイズ対策を阻害し、財源の浪費を裏付ける根拠を示している。人々の命を救い、限りある財源の無駄を無くし、そしてHIV/エイズ蔓延に終止符を打つべく、HIVと法律に関する世界委員会は人権擁護法の早急なる制定を訴える。

【2012年7月9日、ニューヨーク】
世界的指導者と専門家によって構成される独立機関、HIVと法律に関する世界委員会(The Global Commission on HIV and the Law)の報告書は、刑罰法規ならびに人権侵害が人々の命を奪い、財源の浪費を引き起こし、そして世界のエイズ対策を阻んでいることを明らかにしました。同報告書「HIVと法律:リスク、権利と健康(HIV and the Law: Risks, Rights and Health)は、世界すべての地域において政府のエイズ対策が法制度を効果的に利用できていないことを裏付ける証拠を示し、根拠と人権に基づいた法律は世界のHIV/エイズ対策を強化すると結論付けています。また、そのような法律は実在し、早急に世界各国に広められるべきだと主張しています。

国連開発計画(UNDP)のヘレン・クラーク総裁は「悪法は有効的なHIV/エイズ対策の前に立ちはだかるべきではない」と指摘し、昨年の国連総会で採択された『HIVとエイズに関する2011政治宣言』において、加盟国は有効的なHIV/エイズ対策の妨げとなる法律と政策を見直すことで合意しています。多くの国々でこのような法律・政策改定プロセスを促進していることは当委員会の重要な実績のひとつです」と述べました。

元国家元首と世界第一線級の法律、人権、HIV/エイズ専門家により構成されるHIVと法律に関する世界委員会の報告書は、広範な研究と延べ140か国、1000人以上の証言を基に作成されました。国連合同エイズ計画(UNAIDS)を代表してUNDPが支援している同委員会は、刑罰法規と差別的行為が多くの国々でHIV/エイズ対策の実現を阻んでいることを明らかにしました。

例えば、女性と少女を様々な暴力にさらす結果となる法律や法律に容認された習慣は男女不平等を増長し、彼女らのHIV感染リスクを高める。ある知的財産法・政策は国際人権法との整合性に欠け、命を救う治療と予防の妨げとなります。同性愛者、性産業従事者(セックスワーカー)、トランス・ジェンダーや注射による薬物使用者などHIV感染リスクが非常に高いグループを犯罪化し非人間的に扱う法律は彼らを排除し、必須医療サービスから遠のけ、HIV感染リスクを高めます。HIV感染、ウイルスへの暴露、またはHIV陽性の非開示を犯罪化する法律はHIV検査や治療を受けにくい状況をつくりだします。世界の現状は次のとおりです。

世界60か国以上において、他人に対してエイズを引き起こすウイルス(HIV)に暴露または感染させることは犯罪となります。アメリカを含む24か国において600人以上のHIV陽性者が同罪で有罪判決を受けています。このような法律や慣行のもとでは人々はHIV検査を避けるようになり、HIV陽性であることを公表しなくなります。

・78か国において同性間の性関係は犯罪とみなされています。イランやイエメンでは、男性同士の性行為には死刑が適用されます。ジャマイカとマレーシアでは同性間の性関係は長期間の懲役が科されます。これらの法律はHIV感染リスクが最も高い人々の感染防止を阻害します。

・カンボジア、中国、ミャンマー、マレーシアやフィリピンなどの国々では、注射薬物使用者のHIV感染リスクを大幅に低減できることが科学的に立証されている方法(ハームリダクション)が犯罪とみなされています。対照的に、注射薬物使用者のHIV感染予防策を合法化したスイスやオーストラリアなどでは注射薬物使用者間における新規HIV感染はほとんど全く報告されなくなりました。

・全世界の100か国以上で性産業が全面的または部分的に犯罪化されています。このような法制度は性産業従事者(セックスワーカー)を暴力の的にさらし、社会的・経済的排除へと追いやり、HIV感染予防や治療に必須なサービスを受けにくい状況を生み出しています。

・女性性器切除や財産権の否定など女性の権利と尊厳を剥奪する法律や習慣は、女性が安全な性行為を要求することやHIV感染から身を守るための自己決定権を阻害します。世界127か国では夫婦間レイプを罰則する法律が制定されていません。

・青少年が性教育、ハームリダクション、性と生殖、HIV/エイズに関する情報やサービスを受ける権利を阻害する法律や政策はHIVの流行を促進します。

・低価格のHIV治療薬、特にその第二世代、の製造を妨げる過度の知的財産保護政策は治療ならびに予防の障壁となります。

悪法の執行は財源の浪費を招き、有効的なHIV/エイズ対策の妨げとなる

過去30年において、科学の飛躍的進歩と莫大な投資は、命を救うHIV感染予防と治療の目覚しい普及を実現し、無数の人々、家族、そしてコミュニティに恩恵を与えてきました。しかしながら、委員会の報告書は悪法の制定と執行によって多くの国がこのような貴重な投資を無駄にしていると述べています。

フェルナンド・エンリケ・カルドーゾ元ブラジル大統領は「あまりにも多くの国が科学的根拠を無視し偏見を増長する時代遅れの法律執行によって極めて重要な投資を無駄にしています。今や、将来世代をHIV/エイズの脅威から解放できる時代となりました。特に厳しい世界経済情勢の中、不公正と不寛容によってこのチャンスを潰すことは許されません」と訴えます。

政府は科学的根拠、人権擁護、そして公衆衛生を基に法律を執行することが不可欠である

報告書は科学的根拠と人権擁護の精神に基づいた法律は、世界のHIV/エイズ対策を変革できると結論付けます。このような法律は存在し、そういった法規や政策が各国で制定されるべきだと主張します。悪法の蔓延を根絶し、模範となる法規を推進するために、委員会はHIV陽性に基づいた差別を禁止し、HIV感染やHIV陽性の非公表を犯罪化する法律の廃止を政府に訴えます。法の力を用いて女性や少女に対する暴力の根絶、そして貿易や企業の利益を国民の健康に優先する国際的な圧力に対抗するように求めています。さらに、同性間の性関係、自らの意思による性産業従事、そして麻薬の使用を非犯罪化し、社会的弱者が
HIV/エイズに関するサービスを受けられる社会環境づくりを提言しています。

セルビア出身で女性HIV陽性者のネヴィーナ・シリック氏は「世界人口の半分は女性であり、若者は我々の未来です。国は女性と少女への暴力を防止する法律を制定し、法により若者の性と生殖に関する情報やサービス享受支援を保証するべきです」と話します。

これらの実現のために、国際社会は重要な任務を担っています。世界の指導者たち、社会市民グループ、そして国連は各国政府に対し最高水準の国際法、人々の健康、そして普遍的な人権を実現するための責任を課し、人権擁護の精神と科学的根拠に基づいた政策とその実行を訴え続けなければいけません。

当委員会委員でありアジア太平洋HIV/エイズ国連事務総長特別代表のプラサダ・ラオ氏は「各国政府は無知、偏見、そして不寛容に由来する法律を廃止または改正する責任を負っています。たとえ既定政策や既存の文化規範と衝突しようとも、政府はHIV感染リスクの高い社会的弱者やHIV陽性者に恩恵をもたらす模範となる法規を制定しなければなりません」と話しました。

政府は有効的なHIV/エイズ対策を促進する法律を制定した国々のリーダーシップを見習うべきです。同性間の性関係を犯罪化していないアフリカやカリブ諸国のHIV感染率は低いです。ニュージーランド、ドイツ、オーストラリア、スイスやポルトガルなど、注射薬物使用者を犯罪者ではなく患者として扱う国々では薬物使用者のHIV/エイズ関連サービスの利用率が高く、HIV感染率は低いのです。

フェスタス・フォンテバーニェ・モハエ元ボツワナ大統領は「今後、HIV感染予防と治療はそれらを最も必要としている人々に届けることが不可欠です。差別と暴力を禁止し、HIV感染リスクの高い社会的弱者を擁護する法律はHIV/エイズへの投資が無駄とならないための非常に強力で低コストの手法です。そのような法律の施行は一筋縄では行かず政治的困難が伴うが、我々の報告書はそれが可能であり、またやり遂げなければならないことを示しています」と話しました。

HIVと法律に関する世界委員会報告書はこちらからダウンロードいただけます。

HIVと法律に関する世界委員会 (The Global Commission on HIV and the Law)のウエブサイトはこちらからご覧いただけます。

本件に関するお問い合わせ先:

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広報・市民社会担当官 西郡
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国連開発計画(UNDP)本部
Mandeep Dhaliwal
Cluster Leader: Human Rights & Governance
HIV, Health and Development Practice
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