|
TICADの成功事例ネリカ米― アフリカのための新しい稲「アフリカのための新しい稲(New Rice for Africa:NERICA)」はアジア・アフリカ協力の特筆すべき事例といえます。病気・乾燥に強いアフリカの在来種と高収量のアジア種の稲を交配させた、米の新品種です。 ネリカ米は、日本政府と国連開発計画(UNDP)、アフリカ開発銀行(AfDB)、アメリカ国際開発庁(USAID)、国連食糧農業機関(FAO)およびロックフェラー財団の共同支援により、西アフリカで開発されました。タンパク質が豊富で雑草や病害虫に強く、在来種に比べて栽培期間の短い品種です(在来種の栽培期間は140日ですが、ネリカ米はわずか90日で収穫できます)。 西アフリカ稲開発協会(WARDA)での試験栽培に始まり、この新しい米は稲作農家の収穫高を50%も拡大する可能性をもった価値ある品種へと成長しました。ネリカ米は、ベナン、コートジボワール、ガンビア、ギニア、マリ、ナイジェリア、トーゴという7つの試験栽培国から、ウガンダ、ルワンダ、タンザニアなど、東部アフリカの国々へと広がりつつあります。 歴史
|
ネリカ米の何が特別なのかガイ・マナーズWARDA 広報担当官(コートジボアール)
基本的な考えは、アジアとアフリカの稲の最良種を交配することでした。我々の取り組みに不可欠だったのは、1,500ものアフリカ在来種の種子を保管していた遺伝子バンクでした。これらアフリカ在来種は、農家が高収量のアジア品種を求めてその栽培をやめたことで、絶滅の危機に瀕していました。農業科学の急速な進歩がネリカ米の開発を可能にしたのです。 WARDAの科学者たちは、期待を裏切る数々の失敗を乗り越え、胚救済法を用いて2品種を交雑することに成功しました。遺伝子が異なる2種間の品種改良は困難でしたが、異なる遺伝子の交配から生まれた種は、どちらの親に比べても成長が早く、高収量で、生育困難要因に対する抵抗力が強くなる現象、すなわち雑種強勢の著しい効果が現れました。 新しい稲は、アフリカ側の親種がそうであるように、米粒のつきを悪くする雑草に打ち勝ち、干ばつや病害虫に耐え、痩せた土地でも育ちます。しかもアジア側の親種から授かった多収性も持ち合わせています。つまりネリカ米を栽培する農家は、ほとんど何も手を加えずとも生産量を倍増させ、所得を増やすことができるのです。 アフリカ側の親種の円錐花序は75〜100の米粒をつけるのに対し、この新しい稲は400の米粒をつけます。先が枝分かれしたより長い円錐花序や強い茎、米粒をしっかりと保持して振り落としにくい花序など、さらに改良を加えることによって、この新品種は他種に収量で優り、わずかな肥料で豊かな収穫をもたらすでしょう。在来種よりも30〜50日早く育つため、農家が野菜などの他の作物を作ることも可能です。また背が高いため収穫もしやすく、この地域の陸稲耕作地の70%を占める肥沃な酸性土でよりよく育ちます。さらにこれらの新品種は、アフリカ・アジアどちらの親種よりもタンパク質を2%多く含んでいます。 参加参加型の研究がネリカ米成功の根底にあり、なかでも科学者と農家の強い連帯関係が重要な役割を果たしました。 農民参加型の品種選択方式を通じ、農家は複数の品種を栽培し科学者に有益なフィードバックを行いました。一方、科学者は農家に最も役立つのはどのような品種かについて学ぶことができ、これらの優先項目を次なる品種改良戦略に反映させることになりました。 1998年には、ギニアにおけるネリカ米の栽培開始プログラムに、1,300人を超す農家の人々が参加しました。続いて1999年には、種子の供給量を国レベルで増やし、農家に対して啓蒙・啓発活動をするプロジェクトが行われました。この結果、以前は1ヘクタール当たり1トンだった農家一軒当たりの平均収穫高は、わずかな肥料の投入で1.5トン以上に増加し、さらに行き届いた管理とある程度の肥料の投入によって、少ないケースでも倍増を記録しました。 研究によれば、わずか3カ国(ギニア、コートジボワール、シエラレオネ)の10%の農家によってネリカ米が栽培された場合でも、農家の年間所得が全体で800万ドル増えると考えられています。25%の農家が導入すれば、2,000万ドルの収益増になると推定されます。 最初に栽培を始めた西部アフリカ3カ国に加え、計画通り2006年までにベナン、ガンビア、マリ、ナイジェリア、トーゴへネリカ米が普及すれば、この地域の米輸入にかかる年間8,800万ドルの費用を節約することも可能なのです。 |