1995年9月、女性の地位向上に関する過去数十年の進展と今後の方向性を検討する第4回世界女性会議が開催されました。そこで、世界中の女性の平等・開発・平和という目標に対する国際社会のコミットメントとして、日本を含む189カ国の代表により「北京宣言及び行動綱領」が採択されました。同会議で、日本政府はODAを通じたジェンダー平等達成への貢献として、教育、健康、経済社会活動への参加を重点分野とした「途上国の女性支援(WID)イニシアティブ」(以下日本WIDイニシアティブ)を発表しました。この日本WIDイニシアティブの実施と北京行動綱領のフォローアップのための具体策として立ち上げられたのが、UNDP内に設置されたUNDP/日本WID基金(以下WID基金)です。
WID基金の設立当初は、日本WIDイニシアティブの3つの重点分野を対象に、草の根レベルの女性のエンパワーメントに焦点を当て、持続可能な生計手段の確保、小口融資、起業家育成、職業訓練、教育、保健サービスなど、生産資源や社会サービスへのアクセスを拡充することを主な目的としていました。その後、UNDPが資金供与機関から国連のグローバルな開発ネットワークへと進化し、援助手法がプロジェクトへの資金供与から開発途上国が国内や地球規模の開発課題によりよく対応するための政策提言を中心とした支援に移行したことや、以下3つの国際的な援助潮流の変化に伴い、WID基金はジェンダー主流化を促進するための先駆的な試みに対して支援を提供するようになりました:
- 国連が、ジェンダー平等と女性のエンパワーメント促進のため、「ジェンダーの主流化」(注1) を主要戦略としたこと。
- グローバリゼーションの進展が、世界中の貧しい女性たちに更なる困難を課しており、経済開発を含む主要開発課題にジェンダーの視点を組み込むことが重要であると広く理解されるようになったこと。(注2)
- 2000年にニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットにおいて、各国首脳がミレニアム宣言を採択し、それに基づき、貧困削減と持続可能な開発に関する期限付き数値目標としてミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: 以下 MDGs)が設定されたこと。(注3)
WID基金は、日本政府の資金援助と、UNDPの開発途上国における広範なネットワーク及び女性差別撤廃条約(CEDAW)などの国際約束の実行を途上国で支援してきた実績とを組み合わせたユニークな支援モデルであり、1995年から2005年までジェンダーに特化した唯一の基金として、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを促進するための先駆的な試みを支援してきました。
現在、WID基金は2003年に設立されたパートナーシップ基金に統合され、同基金からの拠出で活動を継続しています。
(注1) 「ジェンダーの主流化」とは、すべての開発政策や事業は男女それぞれに異なる影響を及ぼすという前提に立ち、すべての開発政策、施策、事業の計画、実施、モニタリング、評価のあらゆる段階で、男女それぞれについての開発課題やニーズ、インパクトを明確にしていくプロセスのことです。
(注2) グローバリゼーションと開発途上国の世界経済への参入は、貧しく弱い立場の女性にさらに打撃を与えています。政策レベルでジェンダー格差や不平等に対応した方策を講じない限り、グローバリゼーションは男性と女性、富める者と貧しい者との間にある格差をさらに拡大することになります。
(注3) ジェンダー平等の達成も、MDGsの主要目的のひとつですが、ほかのすべての目標においてもジェンダーに配慮した取り組みを行うことが重要です。貧困人口に占める女性の割合の高さだけをみても、ジェンダー主流化が各目標達成に不可欠です。